不動産を所有する方がお亡くなりになった際に行う相続登記ですが、これまでは義務ではなく罰則もなかったため、相続登記を行わなくても誰かから注意されることもありませんでした。現在日本には相続登記をせずに放置された土地がたくさん存在します。
平成29年の国土交通省の調査では日本の約22パーセントもの土地が所有者不明土地となっており、その原因の約66%が相続登記の未了によるものとなっています。
そのため、2021年2月10日に法制審議会民法・不動産登記法部会第26回会議において民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案(案)が決定され、同年4月21日の民法等の一部を改正する法律が参議院本会議で成立しました。相続登記義務化は2024年4月1日から施行となります。住所変更登記義務化については公布後5年以内の政令で施行日を定めるとされています。
民法等の一部を改正する法律の概要
1.不動産登記制度の見直し
- 相続登記、住所変更登記の申請義務化
- 相続登記、住所変更登記の手続きの簡素化、合理化 など
2.土地を手放す制度
- 相続等により土地の所有権を取得した者が法務大臣の承認を受けてその土地の所有権を国庫に帰属させることができる制度の創設
3.土地利用に関連する民法の見直し
- 所有者不明土地管理制度の創設
- 共有者が不明な場合の共有地の利用の円滑化
- 長期間経過後の遺産分割の見直し など
ここでは、特に相続登記の義務化についてご説明致します。
相続登記の義務化の施行日
2024年4月1日から施行されます。
- 施行日前に相続が発生していた場合でも登記申請義務が課されますので注意が必要です。
相続登記の申請の義務化(2024年4月1日施行)
不動産を取得した相続人に対し、その取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をすることを義務付けるものです。
- 正当な理由なくその申請を怠ったときは10万円以下の過料に処されます。
相続人申告登記の新設
- 相続人が申請義務を簡易に履行することができるようにするものです。
- ①所有権の登記名義人について相続が開始した旨、②自らがその相続人である旨
を申請義務の履行期間内(3年以内)に登記官に対して申し出ることで、申請義務を履行したものとみなされます(登記簿に氏名、住所が記録された相続人の申請義務のみが申請義務を履行したことになります)
相続人申告登記の問題点
しかし、この相続人申告登記は、あくまでも相続人の氏名、住所が登記簿に記録されるだけのもので相続登記がされたものではありません。国が相続人を把握することができる限りで効果があります。
相続申告登記の問題としては、
- 登記簿に記録されない相続人の相続登記申請義務は残ったままである。
- 相続人共有の状態のまま相続登記未済のため売却することが出来ない。
- 以降さらに相続人が死亡した場合、相続人の共有者が増えて遺産分割協議が纏まらなくなる(不動産の塩漬け状態につながる)
といった問題点があります。
相続人申告登記を行った場合、一定の国側の事情が解消されたとしても、相続人間の問題を解決したことにはなりません。相続人の皆様方には、ご面倒でも相続登記の申請を行うことをお勧め致します。
遺産分割協議、相続放棄申述、遺言による申請義務
- 相続人申告登記を行った場合でも、その後に遺産分割協議が成立した場合には、遺産分割協議の成立から3年以内に遺産分割協議の内容を踏まえた相続登記申請の義務を負います。
- 遺言により不動産の取得をしたことを知った日から3年以内に遺言の内容を踏まえた相続登記をする義務を負います。
- 相続放棄の申述受理を知った他の相続人は、相続放棄の申述受理を知った日から3年以内に相続放棄後の相続分による相続登記の申請義務を負います。
相続人がすべき申請の方法
- 3年以内に遺産分割協議が成立しない場合
- ⇒3年以内に法定相続分での相続登記の申請を行う。或いは3年以内に相続人申告登記を行う。
- ⇒その後に遺産分割協議が成立した場合には、遺産分割協議成立日から3年以内に、その内容を踏まえた相続登記の申請を行う。
(その後に遺産分割が成立しなければ、それ以上の登記申請は義務付けられない)
- 3年以内に遺産分割協議が成立した場合
- ⇒3年以内に遺産分割の内容を踏まえた相続登記の申請を行う。
- 遺言書があった場合
- ⇒遺言によって不動産の所有権を取得した相続人が取得を知った日から3年以内に遺言の内容を踏まえた登記の申請を行う。
- 相続放棄をした相続人がいる場合
- ⇒その者は、初めから相続人とならなかったものとみなされるため、他の相続人は、その者を除いた上で算定される法定相続分に応じて権利を取得することになる。
他の相続人は、当該相続放棄を知った日から3年以内に相続放棄後の割合による相続登記の申請を行う。
- ⇒その者は、初めから相続人とならなかったものとみなされるため、他の相続人は、その者を除いた上で算定される法定相続分に応じて権利を取得することになる。
司法書士からのお願い
今後、全国の司法書士への相続登記のご依頼が急増することが想定されます。司法書士は当然ご依頼に誠実に対応することとなりますが、直前のご依頼には相続登記の期限内に対応出来ないこととなってしまいます。
皆様方には、相続登記義務化前の今から余裕をもったご依頼を頂けますと大変有難く思う次第です。